THE STORY
アサフ・ラパポートの物語
選んだ道。その先で、起きたこと。
01友人の授業へ入った少年
5人きょうだいの真ん中
1983年8月、アサフ・ラパポートは生まれた。5人きょうだいの真ん中。子どもの頃に両親が別れ、母に育てられた。後に大きな会社を率いるようになっても、母とは日に何度も話す。母は息子の記事を集めていた。[1][2]
地理データ:Natural Earth(パブリックドメイン)。現代の地理と都市の代表位置。出生宅・移動経路ではありません。編集部作図。
18歳で進んだのは、イスラエル軍の理数系の精鋭を育てるTalpiotだった。軍の研修で大学の最初の週へ間に合わず、履修を決める日も逃した。キャンパスに着いたラパポートは、研修で知り合ったイノン・コスティカを頼った。とりあえず友人の授業についていく。コスティカが選んだのはコンピュータ科学だった。[3]
履修の登録には遅れた。その代わり、隣に座った友人との関係は20年以上続くことになる。ロイ・レズニック、アミ・ルトワクとも知り合った。後にWizを作る4人が揃う。まだ売る製品も会社の名前もない。まず、一緒に学び、働く仲間がいた。[3][4]
全員が同じではなかった
ラパポートはヘブライ大学でコンピュータ科学、物理、数学を学び、理工系大学Technionでコンピュータ科学の修士号を取った。情報部門の8200部隊などで働き、技術を現実の問題へ使う経験を重ねた。[5]
4人の得意分野は分かれていった。ルトワクは技術を掘り、レズニックは開発を率いる。コスティカは製品をまとめ、ラパポートは客や投資家に向き合う。誰もが同じ答えを出す集団ではなかった。ラパポートは後に、互いの違いこそがこのチームを動かしていると説明した。[4]
その後、それぞれ軍務や仕事へ進む。それでも、新しいことを始めるたびに呼び戻せる顔が、この時期に揃っていた。
02上海で帰りたくなくなった
休暇の終わりを選べない
2009年、ラパポートはコスティカと上海を訪れた。中国東部の沿海にある国際都市だ。友人は軍の研修でシンガポールに滞在しており、2人は休みを使って合流した。[3]
現地で知り合った学生から、そのまま1学期を過ごしてはどうかと勧められた。気軽な誘いでも、ラパポートには同じように選べない。軍務へ戻らなければならず、自分の仕事を自由に話すこともできなかった。後に彼は、この旅行で自分たちの自由の少なさを実感したと語っている。[3]
軍の仕事に手応えはあった。それでも、軍の外にある国や仕事をもっと見たい。ラパポートは経営コンサルティング会社McKinseyへ進み、イスラエルやオーストラリアの戦略案件に関わった。経営者が何を選び、組織をどう動かすかを考える側へ移った。[5][3]
自分で動かす側へ
McKinseyで企業の問題を分析していたラパポートへ、ルトワクから起業の誘いが来た。今度は提案書を渡すところで終わらない。自分たちで作り、自分たちで売る。レズニックも参加し、軍務を終えるコスティカも続くことになった。[3]
CEOを務めるのはラパポート。McKinseyでの経験も、その役割を引き受ける理由になった。技術を率いるルトワク、研究開発を率いるレズニック。役割を決め、1年間を起業へ使うことにした。[3][6]
ただし、何を売るかはまだ固まっていなかった。4人は会社へ入る順番も役割も決めてから、客が本当に欲しがるものを探し始めた。
03投資家との約束をすっぽかす
16人が待っていた
2012年、ラパポート、ルトワク、レズニックはAdallomを創業した。コスティカも加わった。会社を自分たちのものにしておきたい4人は、投資家へ近づくことに慎重だった。金を受け取れば、プロのCEOを連れてこられ、自分たちが外されるのではないか。ラパポートはそう恐れていた。[7][6]
投資会社Sequoiaのギリ・ラーナンからの電話も避けた。ようやく会う約束をしても、今度は姿を見せなかった。本人が後に若く傲慢だったと認めた振る舞いだ。それでもラーナンは諦めず、顔合わせへ連れ出した。会場にはSequoiaの米国とイスラエルのパートナー16人。世界の投資を指揮するダグ・レオーネまでいた。[6]
ラパポートはその場でも、事業計画や必要な金額を詳しく明かさなかった。翌日、Sequoiaから500万ドル(約7億円)の提案が来た。週末に考えるつもりが、ラーナンは金曜の朝食へ誘う。会ったのは、イスラエル中部の地中海沿岸にある経済都市テルアビブと、その北の村ミフモレットの間のガソリンスタンドだった。[6]
ラーナンは、プレゼンもアイデアも評価していなかった。それでも、チームがよければ進む方向を見つけられると考えた。4人が手放したくなかったチームに、投資家も賭けようとしていた。[6]
守るデータは会社の外にある
Adallomが向かったのは、クラウド上のサービスへ移る企業のデータだった。Salesforceには顧客情報、BoxやDropboxには仕事のファイル。社員は会社の外からもアクセスする。オフィスの入口を守るだけでは、情報が実際に使われる場所を見られなくなっていた。[7]
誰が入ったのか。普段と違う操作をしていないか。Adallomは外部サービスの利用を見えるようにし、危険なアクセスを管理した。便利だから外へ出た情報を、便利さを捨てずに守る。そのための製品だった。[7][8]
04最初の客の仕事を止めた
全員のOffice 365を遮断する
2013年、最初の顧客で製品が異常を検知した。WordからOffice 365を使う動きに反応し、社員全員のアクセスを止めた。1人の不審な利用者を止めるはずが、会社全体の仕事を止めてしまう。売り始めたばかりのチームには、巨大な誤検知に見えた。[8]
ところが調べると、Officeの機能を通じて利用者の認証情報を盗める問題があった。危険な動作が利用者個人ではなく、アプリ側へ結びついていたため、製品は接続全体を止めていた。ルトワクは当時の混乱を、2014年のBlack Hatの取材で説明している。[8]
チームはMicrosoftへ問題を伝え、修正へ協力した。最初の客の仕事を止めた1件が、Microsoftの防御情報を共有する協力プログラムへつながる。売り物の失敗を調べていたはずが、巨大企業のサービスを直す仕事に変わっていた。[8][9]
24歳の仲間を呼ぶ
会社を始めた頃、ラパポートは軍で知り合ったイェヴゲニー・ディブロフへ電話していた。24歳のディブロフは初期社員として加わり、事業開発を担う。製品を作る仲間の隣に、客や提携先を増やす仲間が入った。[10]
この関係は、Adallomの中で終わらなかった。ディブロフが後にセキュリティ企業Armisを作ると、ラパポートは早期に出資する。Wizが生まれた際には、ディブロフと共同創業者ナディール・イズラエルが今度は出資する側になった。昔の上司と部下が、別々の会社を作り、お互いへ資金を出す関係になっていった。[10]
2014年1月、AdallomはIndex Ventures主導で1500万ドル(約23億円)を調達した。テルアビブで開発し、本社は米国西海岸・カリフォルニア州の投資会社が集まる街メンローパークに置いた。資金を使い、技術者と営業を増やす。少人数で見つけた市場へ、組織として入り始めた。[9]
05買収担当を提携担当だと思っていた
社長が電話に出ない
Microsoftとの仕事が増えると、Corporate Developmentの担当者が現れた。企業買収を担当する部署だが、ラパポートは最初、技術や販売の提携を話す相手だと思っていた。技術の打ち合わせは担当者へ任せ、自分は客へ売る仕事に集中しようとした。[11]
ところが相手は、どうしても社長と話したがる。Microsoft側が繰り返し連絡しても、ラパポートへなかなかつながらない。ついにはAdallomの営業へ、Microsoftのイスラエルの責任者が彼を探していると連絡が入った。[11]
一緒に製品を売る話の向こうで、Microsoftは会社そのものを買うことを考えていた。
2015年9月8日、MicrosoftがAdallomの取得を発表した。買収額は報道では3億2000万ドル(約504億円)。創業から約3年で、ラパポートたちは世界的なソフトウェア企業へ入った。[7][12]
飛行機のナプキンに書く
売却後、ラパポートはMicrosoftのクラウド・セキュリティ部門に残った。初めて本社を訪れ、米国北西部・ワシントン州の企業都市レドモンドから帰る飛行機でナプキンを取り出す。そこへ、大企業の中で実現したいことを書き並べた。後に彼は、その一覧をやり終えた時に会社を去ったと語っている。[13]
CEOのサティア・ナデラからは、規則を決める側と破る側の役割について話された。ラパポートは、大企業のやり方を覚えて合わせるだけでなく、変えてよい余地があると受け取った。買われた会社の若いCEOは、巨大企業の中へ自分たちの習慣も持ち込んでいった。[13]
06犬と社員を置いていかない
車よりバスが欲しい
Adallomの職場には15匹の犬もいた。買収で人が移るなら、日常の居場所も変わる。通勤も問題になった。Microsoftが用意しようとした車を、車を持たない社員たちは受け取らなかった。必要なのは1人ずつの車ではなく、テルアビブから北側のヘルツリヤへ通うシャトルバスだった。[14]
最初に乗ったのはAdallomの社員30人。ラパポートが最後に乗った頃には、バスは3台、利用者は150人に増えていた。その中には元Adallomの社員が1人もいなかったという。小さな会社からの要望が、その人たちがいなくなった後も残る通勤手段へ変わっていた。[14]
バッジの色で分けられる
買収された直後、オフィスを管理していた仲間の1人だけがMicrosoftの直接雇用ではなく、外部業者として扱われると知った。ラパポートは最初、社員証の色が違うくらいのことだと思った。だが、同じ職場にいても会社の行事に参加できない。以前は一緒に働く仲間だった人が、買収後は別の側へ分けられていた。[15]
ラパポートは100人を超える請負スタッフを直接雇用へ移した。清掃や警備を担う人たちも含まれる。毎日同じ建物を動かしているのに、行事の日だけ仲間から外れる。その線を、社員証の色の違いだけで済ませなかった。[15]
07作った機能の75%を消す
数人の客から大勢へ
Adallomでは、客に頼まれるたびに機能を足してきた。Microsoftの中では、それを大勢が使えるようにする仕事が待っていた。ルトワクによれば、移行の際、機能の75%ほどを取り除いた。増やす代わりに、規模を広げられるようにしたのだ。[4]
少数の顧客へ個別に足した仕組みを整理し、より多くの企業へ届ける形に作り直す。自分たちで開発した機能でも、そのまま抱えていれば製品全体が重くなる。買収後に待っていたのは、完成した製品を配るだけの仕事ではなかった。[4]
ラパポート自身にも反省があった。Adallomをもう1度始めるなら、営業をもっと早く、多く採ると語った。技術者なら自分で実力を判断できるので投資できた。営業はわからず、慎重になりすぎた。そのため市場へ出る速さを落としたと認めた。[15]
34歳で1000人を率いる
2018年1月、34歳のラパポートはMicrosoftのイスラエル研究開発拠点を率いる立場になった。クラウド・セキュリティ事業も引き続き担当する。拠点には約1000人が働き、ヘルツリヤのほか、北部の港湾都市ハイファやナザレにも広がっていた。[16]
自分たちの会社だけを動かせばよかった時代は終わっていた。Adallomだけでなく、別に買収されたAoratoやSecure Islandsなどの仕事も扱う。軍で知り合った仲間の会社から、多くの人と技術が入る組織へ。ラパポートが動かす範囲は広がった。[16]
08誰が働ける会社なのか
6万シェケル(約306万8400円)の支援
2018年7月、イスラエルで代理出産をめぐる法律への抗議が広がった。男性同士のカップルが対象から外れたことに反発が起きた。ラパポートもストライキへの参加を表明した。[17]
Microsoftのイスラエル拠点は、代理出産で家族を作る社員へ6万シェケル(約306万8400円)を支給すると発表した。性別、婚姻状況、性的指向を問わない。参加のための休暇だけでなく、海外で必要になる費用を支える制度へ進んだ。[17]
ラパポートはLGBTの当事者としても、この問題に関わった。自分の名前で声を上げることと、会社の制度を変えることを切り離さなかった。[17][18]
採用した後の道を作る
同年10月の講演では、女性やアラブ系の人材を増やす必要も語った。採用されても昇進の道が見えなければ、応募する人は増えにくい。働く場所も重要だった。ナザレに研究開発拠点を作ると、アラブ系の応募者が増えたという。[19]
本人には別の驚きもあった。米国から戻った際、Microsoftで競合製品のMacを渡された。本人は後にSurface Proへ戻ったが、大企業の中で変えられるものは、社員が触る機械から通勤や採用まであった。[19]
091500人の席を離れる
同じ4人でもう1度
2019年12月18日、Microsoftはラパポートの退職を発表した。研究開発拠点の人数は約1500人まで増えていた。34歳で引き受けた大きな組織を離れ、また小さな会社へ戻る。[20]
Microsoftでの仕事を通じ、次の問題が見えていた。客はAzureだけで働いていない。Amazon Web ServicesやGoogle Cloudも使う。別々の提供元へまたがるシステムを、全体として守れないか。[4]
2020年1月、ラパポート、ルトワク、レズニック、コスティカは新会社を始めた。当初の名前はBeyond Networks。最初はネットワークの安全を中心に考えた。しかし客と話すと、守る道具が足りないだけではないことがわかった。すでに警告は大量に出る。それなのに、何から直せばよいかわからない。[12]
世界が閉じた直後に
会社を始めて間もなくパンデミックが来た。安定した仕事を離れた社員には、家族から入社を考え直すよう言われた人もいた。移動できず、客を訪ねることも難しくなった。[12]
ところが、画面越しなら遠い会社の責任者とも会える。企業の側も、オフィスの中の設備より、クラウドで仕事を続ける方法へ急いでいた。ラパポートは後に、クラウドの安全を扱う会社には2020年3月が最良の時期だったと振り返った。[12]
出張が止まり、商談は画面へ移った。その画面の向こうで、顧客も急いで仕事をクラウドへ移していた。4人の新会社が向き合う市場は、世界が閉じた直後に動き出した。
10午前2時の採用電話
小さな会社へ来てほしい
リロン・ホルシはMicrosoftでAdallomの社員を迎える仕事をしていた。退職後、午前2時にラパポートから電話が来た。新しい会社を始めるので、社員の福利厚生を担当してほしい。そんな誘いだった。[21]
ホルシが時刻を指摘しても、ラパポートは誘いを続けた。彼女は小さな会社で働くつもりで加わった。その職場は後に1800人規模へ育ち、最初の誘いから想像していた仕事を大きく超えていく。[21]
大企業の福利厚生をそのまま持ち込むわけにはいかない。家族向け行事のFamily Dayも、よい案がなければ無理に開かない。年間行事を定番どおり埋めるのではなく、ここで働く人が何を必要としているかを考えるよう求めた。[21]
後にはテルアビブの新キャンパスも任された。最初は図面が読めなかったホルシが、質問を重ね、建築家へ空間や材料を説明する仕事まで担う。ラパポートは未知の仕事を渡すが、答えを全部揃えて渡すわけではなかった。[21]
10日聞いてもわからない
初期社員のラアズ・ヘルツベルグは、Microsoftのシャトルバスでラパポートの隣に座ったことから知り合っていた。新会社に加わると、顧客向けの説明へ同席した。1日10件ほど、それが10日ほど続いた。[22]
客は興味深いと言う。しかしヘルツベルグには、この製品が何を解決するのか、はっきりわからなかった。何度も説明を聞いたからこそ、その疑問が消えなかった。彼女は製品を担うコスティカへ伝えた。[22]
前の会社を成功させた創業者たちが、最初の構想を捨てる。進む先はクラウド全体の安全だった。方向を変えると、商談の反応も変わった。値段を尋ねられる。実際の環境で試す話になる。ヘルツベルグは、礼儀正しい相づちの続いた会議と、その後の具体的な質問を区別して見ていた。[22]
11赤い警告をつないで道にする
どこから盗まれるのか
2020年12月、Wizは製品を公表し、1億ドル(約157億円)の資金調達を発表した。コードを書き始めてから9か月で、米大企業の売上上位100社を指すFortune 100の企業も顧客になったと説明した。[23]
外から入れるシステムがある。そのシステムにはソフトウェアの弱点があり、さらに大切なデータを扱う権限がある。1つずつ見れば、ほかにも大量にある警告の中へ埋もれる。しかし、つなげて見れば、外から情報を盗むところまで進める道が浮かぶ。Wizはその関係を見せ、先に塞ぐ場所を判断しやすくした。[23][24]
利用企業の機械へ常駐するソフトを大量に入れる手間も減らした。導入する仕事だけで何週間も使うのではなく、まず全体を見られるようにする。警告を増やすより、すでにある危険の組み合わせをわかる形へ変えた。[23][24]
昔の投資家が戻ってくる
取締役にはIndexのシャーダル・シャー、Sequoiaのダグ・レオーネ、Cyberstartsのギリ・ラーナンが加わった。Adallomで関わった投資家たちだった。初めての起業で電話を避けていたラパポートが、今度は彼らと大きな資金を集めていた。[23]
初期には営業を置く前に、技術者や製品担当が契約を取った。テルアビブで働く社員は約30人でも、有料顧客はすでに大企業を含む数十社。金融や医療のような、厳しい基準で製品を選ぶ会社も入っていた。[25]
1億ドル(約157億円)を最初に集める理由を問われると、すぐに会社を売るつもりなら、この額も投資家も選ばないと答えた。Adallomを売った経営者に、次も売るのかという質問はついて回る。ラパポートは、今度は長く育てる会社を目指していた。[25]
12顧客が投資家へ回る
15分で見せる全体像
2021年3月、製品を公表してわずか数か月のWizは、新たに1億3000万ドル(約204億円)を調達すると発表した。企業評価額は17億ドル(約2679億円)。投資家への説明の中心にあったのは、未来に生まれる未知の問題より、顧客がすでに大金を払っても解けずにいる問題だった。[26]
社内の安全担当者には、ネットワーク、権限、ソフトウェアの欠陥ごとに警告が届く。別々の一覧を突き合わせ、本当に侵入される経路を探すのは人の仕事だった。Wizは、顧客のクラウドへ15分で接続し、それらを1つの図へまとめると説明した。担当者が何千件もの警告を読む前に、危険が重なる箇所を示す。会社によれば、公表後3か月で米大企業の売上上位500社を指すFortune 500の10%を超える企業が使っていた。[26]
最初の会社では、使ってもらった後で機能を増やしすぎた。今度は最初に全体を見せ、どこを直すかまで結びつける。その違いを、導入の速さと顧客の広がりで示そうとしていた。[4][26]
買ってくれた相手から金を集める
6月には、追加の1億2000万ドル(約189億円)で同じ資金調達ラウンドを拡大した。新たに加わったのはSalesforce VenturesやBlackstone、Aglaé Ventures。営業先の名簿にあってもおかしくない巨大企業の名前が、今度は出資者として並んだ。[27]
Blackstoneのセキュリティ責任者アダム・フレッチャーは、すでにWizの初期顧客だった。投資会社の巨額の資産を扱う組織が、クラウドの安全を任せ、その経験を経て資金も出す。Salesforce側はクラウド事業そのものの当事者で、AglaéはLVMHを率いるベルナール・アルノーの一族側の投資会社だった。[27]
製品を売った相手との関係が、出資へつながる。軍で一緒だった仲間と昔の投資家だけで始めた会社に、今度は顧客側の経験と資金が入ってきた。ラパポートは新たな投資家を迎える発表で、会社のどの部門でも採用を進めていると呼びかけた。[27]
13古巣の金庫に鍵が残っていた
ChaosDB
2021年8月、Wizの研究者ニル・オフェルドとサギ・ツァディクが、Microsoft AzureのCosmos DBの問題を公表した。大量のデータをクラウド上で保存するサービスだ。別の顧客の情報へ入れる鍵を取得できる危険があり、ChaosDBと名付けた。[28]
Microsoftの中で安全を作ってきた仲間が、今度は独立した会社で、そのサービスを調べていた。客の設定ミスだけではない。提供する仕組みの側に弱点があった。Wizによれば、Microsoftは報告を受けて48時間以内に問題の機能を止めた。[28]
それでも、漏れた可能性のある鍵は長く使える。機能を止めても、鍵を持った相手がいれば別の入口から入られる恐れがある。顧客にも鍵の交換を呼びかけた。巨大な提供元が直す仕事と、そのサービスを使う客が直す仕事の両方が残っていた。[28]
ロンドンへ営業の拠点を置く
同年9月、Wizはイギリスの首都ロンドンを、欧州・中東・アフリカ向け営業の中心にすると発表した。責任者にはPuppetやクラウド防御製品Prisma Cloudなどの営業組織を率いたロブ・フィンを迎える。オランダ、スウェーデン、ドイツ、フランスでも人を採った。[29]
海外へ売るといっても、米国の昼にオンラインで説明するだけでは済まない。ロンドンには顧客との契約や相談、事業開発を担う拠点を作り、各国へ営業と技術支援の人を置いた。クラウドを調べる製品の向こう側に、購入し、使い続ける企業がいる。会社はその近くへ人を増やしていった。[29]
この時、同社は年初25人だった社員が120人へ増えたと報告している。4人で始めた会社の製品を、アメリカ、イスラエル、欧州のチームが一緒に売る段階へ進んだ。[29]
146億ドル(約945億円)を持って採用を続ける
市場の下落で現金は消えない
2022年5月、技術系企業の株価が下がり、市場に不安が広がった。ラパポートは採用を止めなかった。約6億ドル(約945億円)を調達済みで、当面は新しい資金調達を必要としていないと説明した。[30]
ラパポートはこの下落を、必要な技術者を採る機会とも捉えた。ただし、口座に資金があるからといって使い切るつもりはない。次の調達に頼らず進めるよう、支出の速度を見ながら採用を続けた。高い評価で集めた資金を、株価が崩れた後の行動力へ変えようとしていた。[30]
18か月でARR1億ドル(約157億円)
2022年8月、WizはARRが1億ドル(約157億円)に達したと発表した。継続契約を1年分に換算した規模で、実際の通期売上とは異なる。ARR100万ドル(約1億円)から18か月でここまで増やした。BMW、Costco、Salesforce、LVMHが顧客に並んだ。[24]
2022年夏には、社員が400人を超えていた。ニューヨークに新本社を開き、欧州やアジア太平洋にも人を置いた。かつてDocuSignで技術と安全を統括したエミリー・ヒースも取締役へ迎えた。客の側で安全を守っていた経験を、製品を売る側へ加えた。[24]
営業を率いるコリン・ジョーンズが入ったのは、ARRがまだ500万ドル(約7億円)に届く前だった。マーケティングや戦略を担うライアン・カールソンも、大きな会社の重要な職を離れて加わった。ラパポートは相手が次にどんな経歴を作りたいかを聞き、Wizでそれを実現できるか考えていたという。[31]
SalesforceやSnowflakeのようにクラウドを使いこなす企業と、BlackstoneやBMWのように別の事業をクラウドへ移す企業。初期から違う種類の大きな客を相手にし、そこで使える製品へ育てていた。[31]
15サーバー室で渡された別の仕事
技術者をマーケティングへ
創業から2年半ほど経った頃、今度は製品の良さを知らない客が壁になった。ヘルツベルグによれば、実際に試してもらえば競合に勝てるのに、商談へ行くと相手はすでに別の製品と契約している。もっと早くWizを知りたかったと言われる。製品を改善する前に、存在を知ってもらう仕事が必要だった。[32]
ラパポートは仕事中の彼女を呼び、空いていたサーバー室へ連れていった。そこでマーケティングを率いるよう持ちかける。技術と製品の仕事をしてきた本人には、その職務の経験がない。木曜日に受けた提案を、週末にポッドキャストを聴き、他社の責任者と話しながら考えた。最後は引き受けた。[32]
やがてセキュリティ業界の展示会RSAで、Wizの出展場所が『The Wizard of Oz』を思わせる世界へ変わった。ドロシー役の俳優まで現れる。暗い色や恐怖を使う業界の見せ方から離れ、明るい色と魔法で目を引く。彼女は同じ場所の来訪者が前年の5倍になったと振り返った。難解な技術を持つ会社が、通り過ぎる人の足を止める姿まで作り変えた。[32]
16資金を国内へ入れない
100億ドル(約1兆5760億円)企業の抗議
2023年2月、Wizは企業評価額100億ドル(約1兆5760億円)で3億ドル(約472億円)を調達した。同時に、そのお金をイスラエルへ移さないと表明する。政府が進める司法制度の変更への抗議だった。[33]
共同創業者コスティカは、従業員や投資家の資金を守る責任と、差別を許さない立場の両方から説明した。取引先にも、性別、人種、宗教、性的指向によって客を差別しない文書への署名を求めた。[33]
国内経済を傷つけるのではないかという批判も受けた。コスティカは、自分たちはイスラエルに残り、ここで会社を作るために声を上げていると答えた。会社を大きくしながら、政治の話は避けておくという道を選ばなかった。[33]
17褒め合った提携先と別れる
半年で終わった提携
2023年4月、ラパポートはSentinelOneのCEOトマー・ワインガーテンと一緒に取材を受けた。機器やクラウドで起きる攻撃を捉える会社と、クラウド全体の危険を見通す会社。2社は独占的な提携を結び、互いの製品を評価していた。[34]
複数の製品をまとめる方法は、会社を買うことだけではない。一緒に動くようにすれば、客が扱う道具を減らせる。ラパポートはそういう方向も語っていた。ところが8月、提携は終わった。[34]
直前には、WizがSentinelOneの買収へ関心を示すコメントを出していた。SentinelOneは、Wizが約束を十分に実行していないため販売契約を解除したと説明する。Wizはその説明にコメントしなかった。[34]
一緒に製品を売る相手と、その会社を買う相手とでは、距離が変わる。公の場で互いを褒めていた経営者同士でも、その後の関係は円満に続かなかった。
18共有リンクから38テラバイト
公開したいものだけではなかった
2023年9月、WizはMicrosoftのAI研究に関わるデータの問題を公表した。GitHub上のリンクをたどると、公開したい学習用データだけでなく、追加の38テラバイトへアクセスできた。社員2人のパソコンのバックアップ、秘密の鍵、パスワード、3万件を超える内部のTeamsメッセージまで含まれていた。[35]
保存場所そのものは非公開でも、共有用のリンクへ広すぎる権限をつければ中へ入れる。しかも見るだけでなく、書き換えや削除もできた。研究者が公開用に渡した鍵が、別のファイルまで開ける鍵になっていた。[35]
Wizは6月にMicrosoftへ知らせ、共有の鍵は無効化された。9月に公表したのは、その対応を経た問題だった。AIの性能を高めるために大量のデータを使う仕事のそばで、どの範囲を外へ渡したかという設定が危険を生んでいた。[35]
19買われた会社が買う側へ
開発者へ近づく
2023年12月、WizはRafttを買った。開発者がクラウド上で一緒に作業する環境を作る会社で、Wizにとって初めての買収だった。[36]
安全を確かめる担当者が問題を見つけても、実際に直すのは別の部署の開発者になる。警告を渡した後、誰がどこを修正するかで仕事が止まる。ラパポートは、すでにWizの利用者の半分以上がセキュリティ専門部署の人ではなくなったと説明した。見つけるところから、作る人が直すところへ近づこうとしていた。[36]
2024年4月にはGem Securityの取得を発表する。危険な設定を事前に見るだけでなく、クラウドで実際に起きる不審な動きに対応する力を加えた。創業者アリエ・ジルベルシュタインらが持つ知識を、チームごと迎えた。[37]
翌5月、企業評価額120億ドル(約1兆8912億円)で10億ドル(約1576億円)を調達した。Andreessen Horowitz、Lightspeed Venture Partners、Thrive Capitalが主導した。採用や開発だけでなく、買収にも使う資金だった。Microsoftに入る側だった仲間が、今度は別の会社の人と製品を受け入れる側へ回った。[38]
20他人のAIへ届く穴
モデルを預かる場所を調べる
買収と資金調達を進める一方、研究チームはAIの基盤へ調査を広げていた。2024年4月、AI開発者がモデルを公開し、動かす場所として使うHugging Faceとの共同研究を公表する。Wizの研究者は自分たちのテスト用モデルを使い、利用者ごとに分かれているはずの実行環境を越えられる問題を確かめた。他の顧客のモデルへ届く恐れがあった。[39]
AIを動かすには計算能力がいる。開発者が全員その設備を持つ代わりに、専門のサービスへモデルを預けて実行する。すると、そのサービスは他人が持ち込むプログラムを大量に扱う。利用者の1人が危険なものを持ち込んだ時、隣の利用者を巻き込まない区切りが欠かせない。Wizが調べたのは、AIの答えの正しさより、その答えを生む計算設備の境目だった。[39]
見つけた後は一緒に塞ぐ
Hugging Faceも同日、関連する問題への対処を済ませたと発表した。研究を公表するだけで関係を終えず、Wizを自社のクラウドの欠陥や設定を管理する仕組みとして導入する。複数の地域と提供元へ散らばる設備の危険を、関連づけて見られる点を評価した。[40]
モデルの保存形式にも判断が要った。広く使われる形式には危険があっても、いきなり禁止すれば開発者の作業が止まる。Hugging Faceは、検査や警告、実行環境の分離を強め、より安全なSafetensorsという形式への移行も促した。公開する自由を残しながら、他人のモデルを受け入れる場所の守り方を変える。Wizの研究は、相手を困らせる発見から、相手と防御を作り直す仕事へ続いた。[40]
21230億ドル(約3兆6248億円)を断った午前4時
署名の直前で止まる
2024年7月、GoogleがWizを230億ドル(約3兆6248億円)で買う話が報じられた。5月の資金調達では120億ドル(約1兆8912億円)の評価だった会社へ、その2倍近い価格がついた。創業から約4年。すでに、普通なら人生が大きく変わる取引だった。[41][42]

写真:Kimberly White / Getty Images for TechCrunch/出典/CC BY 2.0。表示用縮小。
ラパポートと仲間は断った。書類は署名できるところまで進んでいたが、独立して育てる方を選んだ。[18]
午前4時、230億ドル(約3兆6248億円)を断った判断が頭から離れない。会社を80億ドル(約1兆2608億円)まで落とし、愚かなCEOとして見られたらどうするか。ラパポートは後の本人インタビューで、そんな未来を考えたと明かした。断る決断の裏には、成功を確信した英雄の顔だけでなく、その失敗を引き受ける本人の不安があった。[18]
Googleのスンダー・ピチャイへ電話するのも怖かった。だが、相手は怒りをぶつける代わりに、これから最良の協力相手になるにはどうしたらよいかと応じた。ラパポートは、その対応も後に語っている。[18]
1200人へ知らせる
ラパポートは世界の約1200人の社員へメールを送った。取引を断るのは難しい判断だったと認め、次の目標にARR10億ドル(約1576億円)と株式公開を掲げた。翌日から働く人たちへ、巨額の出口を閉じた後の進路を示した。[41]
会社には5月に集めた10億ドル(約1576億円)がある。売らないと決めれば、そのお金と人を使い、自分たちの会社として伸ばすことになる。拒否は見栄えのよい逸話で終わらず、次の製品と契約を増やす責任になった。[38][41]
アメリカ海軍の手続きを変える
2024年8月、Wizは米政府のクラウド調達に関わるFedRAMPのModerate認証を取得した。外部の評価を含む審査を受け、政府機関が求める安全の基準に対応する。ラパポートが社員へ上場と成長を掲げた翌月、巨大な民間企業の先にも市場を広げた。[43]
その利用先に、アメリカ海軍の研究施設がある。技術支援会社Strategic Business Systemsと進めるCOSMOSという仕組みに、Wizを組み込んだ。クラウド上で新しいソフトを動かすにも、安全の確認と書類が要る。開発者の仕事が終わっても、利用を認められるまでの手続きで時間がかかる。[44]
COSMOSは危険の検出から必要な報告書の作成までをつなぎ、その作業を自動化した。担当したSBSのマイケル・ジョンソンは、通常3か月かかる一連の工程を30分に縮められたと説明している。この顧客環境での手続きについて、支援企業側が示した成果だった。[44]
最初の客では、Wordからの接続を止めて仕事を中断させた。約10年後には、巨大な組織の中で安全を確かめる待ち時間を短くする側へ回っていた。守るために止めるだけでなく、仕事を進められる形へ変える。クラウドを調べる製品が使われる場所は、企業の営業資料や顧客情報の向こうへ伸びていた。[8][44]
22電話番号をくれた人の会社を買う
Dazzとの古い縁
同年11月、WizはDazzの取得を発表した。見つかった問題がどのコードから生まれ、誰がどこを直すかをつなぐ会社だ。脅威を見つけるところへ、原因を直す力を加える買収だった。[45]
共同創業者メラヴ・バハットは、Microsoft時代からラパポートを知っていた。彼女が入社したばかりの頃、ラパポートが部屋へ来て、ホワイトボードに自分の電話番号を書いた。何か必要なら連絡してほしい。数日後にはAdallomから来た仲間も紹介してくれた。普段は電話やメッセージの返事が遅い本人を、バハットは後に笑って振り返った。[46]
2人の会社には共通の客がいた。両方の製品を買うから、1つにまとまらないかという声もあった。交渉中、バハットの母が亡くなると、喪に服す間は話を止めた。製品や価格の交渉へ、昔から知る人の人生も重なっていた。[46]
犬のMikaも、2人をつなぐ存在だった。ラパポートが会議へ行く間、バハットの家で過ごし、子どもたちとも育った。Mikaは2024年11月に死んだ。会社を売り買いする人間関係の間には、職場を離れて続いた日常もあった。[46]
23上場できる会社へ整える
引退した財務のプロを呼ぶ
2025年1月、ラパポートはファザル・マーチャントを社長兼CFOへ迎えた。アニメ映画会社DreamWorks Animationやセキュリティ企業Taniumで経営を経験した人物だった。何度か引退し、旅行や釣りをしても、もう1度会社の中で深く働く場を探していた。[47]
共通の知人には映画プロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグもいた。ラパポートと最初に会ってから約1年。気軽な顔合わせが正式な面談に変わり、入社へ進んだ。上場を目指す会社へ、財務と体制を整える人が加わった。[47]
ただしマーチャントが用意するのは、上場という選択を実行できる状態だった。株主や経営陣が買収を選ぶなら、その方針も実行する。独立を続けるために会社を整える仕事は、別の大きな選択肢も閉じない形で進んでいた。[47]
24AIの裏側に開いていた入口
DeepSeekの100万行
2025年1月、Wizの研究チームは、中国のAI企業DeepSeekの公開されたアドレスを調べた。数分で、認証なしに触れられるデータベースが見つかった。会話履歴や秘密の鍵、内部の情報を含む100万行以上のログが入っていた。[48]
問題は、データの保存場所が外へ開いていたことだった。研究チームは必要な確認にとどめ、会社へ連絡した。DeepSeekは公開状態を塞いだ。注目を集めるAIのそばで、その利用者の会話を置く場所が無防備になっていた。[48]
サービスが突然注目を集めれば、そこへ大量の利用者が情報を預ける。モデルの性能が高いことと、その周囲のシステムが安全なことは別に確かめなければならない。Wizが扱う仕事は、クラウドへ移る企業の情報から、AIが生む新しい接続へも伸びていた。[48]
25ホテルの朝食で渡された封筒
300億ドル(約4兆7280億円)からの交渉
2024年の交渉を断ってから約半年後、ピチャイはラパポートをニューヨークのホテルの朝食へ呼んだ。個室で大きな茶色の封筒を渡す。中にあったのは、300億ドル(約4兆7280億円)の買収提案だった。7日以内に話をまとめるという期限もついていた。[18]
ラパポートが後に明かした朝食の場面だ。今回は交渉を進めた。封筒に入った300億ドル(約4兆7280億円)からさらに条件を詰め、最終額は320億ドル(約5兆432億円)になる。去年は断った相手と、今度はその数字で握ることになった。[18]
2025年3月18日、Googleは買収合意を発表した。前年に断った相手へ、今度は売る。230億ドル(約3兆6248億円)と320億ドル(約5兆432億円)の間には、独立して成長し、上場もできる会社へ整える時間があった。[42][49]
Googleの外も守る
ラパポートは、Googleの資源とAIの技術によって開発を速められると説明した。同時に、Googleに入っても、Google以外のクラウドへ対応し続けると約束した。AWS、Microsoft Azure、Oracle。客の仕事は親会社の競合の上でも動いている。[49]
Microsoftの中から外へ出た時、客が複数のクラウドを使っていることが次の起業につながった。その客へ、Googleの傘下に入っても別のクラウドの安全を支え続けると伝える。売却後に何を残すかまで、問われる取引だった。[49][50]
26巨額取引の横で特許を争う
競合は何を訴えたか
Wizの成長には、競合との対立もついてきた。2023年7月、Orca Securityは米国で特許侵害を訴えた。創業者たちがMicrosoft時代にOrcaの技術へ触れ、その知識を使ったという主張も含まれた。Wizは否定し、特許の有効性を争った。[51]
2025年12月、米特許審判部はOrcaが主張した6件のうち3件の特許について、その請求項を認められないと判断した。ただし、それだけで訴訟全体が終わったわけではない。[51]
2026年1月、両社は請求と反訴を取り下げ、同じ請求で再び争わない形で終結させることに合意した。費用は各自負担。侵害の主張すべてについて裁判所の最終判断を得る前に、双方が和解で争いを終えた。[51]
27320億ドル(約5兆432億円)の取引を終える
取得完了までの1年
2026年3月11日、GoogleはWizの取得完了を発表した。合意から約1年。Wizはブランドを残し、Google Cloudへ入った。Amazon Web Services、Microsoft Azure、Oracle Cloudも含めて対応し続けると、Google側も明記した。[50]
7月の更新でラパポートは、Googleの基盤だけでなく、AWSやMicrosoft、SalesforceのAI開発環境への対応も説明した。危険を探す、原因のコードを直す、不審な動きへ対応する。それぞれを担うAIへ製品を広げたと報告した。[52]
Adallomでは機能を足し、Microsoftでは削り、Wizではばらばらの危険をつないだ。今度は、人が警告を読む速さを超えて変わるシステムへ、守る仕事も合わせようとしていた。
28富を得てもバスに乗る
賃貸暮らしからの変化
2025年の人物取材では、ラパポートはテルアビブの古い建物の賃貸に住んでいた。自家用車を持たず、歩いたり公共交通を使ったりした。食事の好みはジャンクフード寄り。一方、旅行やコンサートにはお金を使い、Beyoncéの公演へ友人を招いた。[2]
Googleによる取得後には、テルアビブの北の高級住宅地で、約4000万シェケル(約20億円)の不動産を買ったと報じられた。以前の賃貸暮らしはお金がないためではない。友人は、その住まいで本人が満足していたと説明していた。暮らし方も、時間とともに変わっていった。[53]
320億ドル(約5兆432億円)を受け取る人たち
売却の完了を前に、2026年2月の経済紙Globesは株主の取り分を試算した。4人の創業者はそれぞれ10%弱を持ち、税引き前で1人30億ドル(約4728億円)ほどになるという推計だった。会社側が個人の手取り額を公表した数字ではないが、最初のAdallom売却とは桁の違う富を示している。[54]
同紙は従業員の分を合計25億ドル(約3940億円)と推定した。長く働いた人、後から入った人、保有する株式や権利の量によって分配は変わる。全員が同額を受け取る話ではない。それでも、会社を売るという判断が、創業者4人だけでなく、働く人たちの資産へ直結する規模だった。[54]
外部投資家にも大きな取り分が生まれる。GlobesはIndexが35億ドル(約5516億円)、Sequoiaが32億ドル(約5043億円)、Insightが29億ドル(約4570億円)を得ると見積もった。若いラパポートが避けた投資家の電話から始まった関係は、別の会社を経て、巨額の持ち分を分け合うところまで続いていた。[54]
29企業の外にも守る仕事がある
Guardioへ出資する
2026年9月、ラパポートは個人向けのセキュリティ会社Guardioへ出資した。企業の大きなクラウドではなく、メールやメッセージ、電話を通じて日常の利用者へ届く詐欺を防ぐ会社だ。4000万ドル(約63億円)を調達し、評価額は11億ドル(約1733億円)となった。[55]
CEOのアモス・ペレドは偶然会った際、個人向けで最大級の会社を作りたいと話し、加わってほしいと誘った。ラパポートは、AIによって巧妙になる詐欺に対し、自分を守る部署を持たない個人へ防御を広げられると説明した。[55]
昔の部下が作ったArmisへ出した資金と同じように、自分で始めた会社だけが関わる先ではなくなっていた。
テレビ局へ1億2000万ドル(約189億円)
同月、ラパポートとコスティカが資金を出すテレビ事業Reshet 13の支配権移転が承認された。株を持ち、支配する器は公益目的のMerit。2人は3年間で1億2000万ドル(約189億円)を拠出すると約束した。[56]
承認には条件がついた。資金源を明らかにし、今後の寄付者にも条件を設け、Meritの意思決定に関わる人数を増やす。お金を出す2人が、そのまま放送の判断を自由に決めてよいという取引ではなかった。[56]
技術を守る製品で得た富が、今度は情報を伝える事業の基盤へ向かう。資金を提供する力と、報道の独立性を保つ仕組み。その距離も問われる立場へ進んだ。[56]
30売った後も仲間と作る
選べる自由の使い方
ラパポートは2026年の取材で、富を得て仕事を減らしたとは語らなかった。以前にも増して働いているが、どれも自分がやりたいと選んだ仕事だと説明した。[18]
上海での休暇では、もう少し残ることさえ簡単に選べなかった。今は大きな企業の中で働きながら、新しい会社へ資金を出し、メディアにも関わる。その自由を、働かないためだけには使っていない。
友人の授業へ入り、同じ仲間と会社を始めた。投資家との面談をすっぽかした男は、その投資家たちともう1度会社を育てた。Microsoftへ売って中から学び、外へ出て、今度はGoogleへ入った。
会社の名前と所属は変わっても、次に誰と何を作るかを決める仕事は続いている。230億ドル(約3兆6248億円)を断った夜も、320億ドル(約5兆432億円)へ交渉を進めた朝も、ラパポートは1人で成功した発明家ではなかった。長く一緒に働いてきた仲間と、次の組織の形を選ぶ経営者だった。[4][49]
参考文献・出典 56件
本文の番号に対応する資料です。本人・関係者のインタビュー、当時の取材、企業の発表を参照しています。
- Companies House — Assaf Rappaport(生年月・国籍) ↩ 本文
- Lior Ohana — Assaf Rappaportの家族・暮らし(Ynet) ↩ 本文
- Harry Spitzer — With a Little Help From Their Friends(2024年10月) ↩ 本文
- Wiz創業者チームの本人取材(Insight Partners、2023年) ↩ 本文
- Wiz — Assaf Rappaport公式略歴 ↩ 本文
- CTech・ラパポート本人による7つの教訓(2021年) ↩ 本文
- Microsoft — Adallom取得発表(2015年9月8日) ↩ 本文
- Black Hat主催者・Adallom CTO Ami Luttwakの直接インタビュー(2014年) ↩ 本文
- Globes・Adallomの1500万ドル調達とMicrosoft提携の同時代報道(2014年) ↩ 本文
- Globes・初期社員イェヴゲニー・ディブロフの直接証言(2024年) ↩ 本文
- Startup for Startup 第143回・ラパポート本人の買収回想(2021年) ↩ 本文
- Cloud Captains — Wiz創業者チーム本人取材(Index Ventures) ↩ 本文
- Forbes Alex Konrad人物取材・イスラエル版再録(2023年) ↩ 本文
- Geektime・ラパポート長文直接インタビュー(2021年2月) ↩ 本文
- Globes・Omri Zerachovitzによる本人公開インタビュー/Road Show(2019年7月18日) ↩ 本文
- CTech・Microsoftイスラエル研究開発責任者就任の同時代報道(2018年) ↩ 本文
- Lilach Baumer・2018年代理出産法への企業の対応/CTechのForward再録 ↩ 本文
- CTech — Roni Kuban本人インタビューの買収交渉記録(2026年9月27日) ↩ 本文
- CTech・ラパポートの2018年10月講演を現地報道 ↩ 本文
- CTech・Microsoft退職発表の同時代報道(2019年12月18日) ↩ 本文
- Globes・福利厚生責任者Liron Chorshi直接取材(2025年3月28日) ↩ 本文
- Ynet・Raaz Herzberg直接インタビュー(2025年) ↩ 本文
- Assaf Rappaport — Wizの公開と1億ドル調達(2020年12月9日) ↩ 本文
- Assaf Rappaport — 1億ドルARRと製品の構造(2022年8月10日) ↩ 本文
- Globes・初回調達発表時のラパポート取材(2020年12月) ↩ 本文
- Assaf Rappaport — Series B / 17億ドル評価と顧客導入(2021-03-22、4月追記あり) ↩ 本文
- Assaf Rappaport — Salesforce Ventures, Blackstone, and Aglaé Join Team Wiz(2021-06-10) ↩ 本文
- Nir Ohfeld・Sagi Tzadik — ChaosDB(2021年8月26日) ↩ 本文
- Assaf Rappaport — Wiz goes (even more) global(2021-09-14) ↩ 本文
- CTech・市場下落時のラパポート独占インタビュー(2022年5月) ↩ 本文
- Index投資家Shardul Shahによる初期幹部採用の直接証言(2022年) ↩ 本文
- Raaz Herzberg本人インタビュー — Lenny’s Podcast(2024-11-17) ↩ 本文
- CTech・共同創業者Yinon Costicaの直接取材(2023年4月) ↩ 本文
- CRN・SentinelOneとWiz双方の発表への取材(2023年) ↩ 本文
- Wiz Research — Microsoft AI研究での公開範囲の問題(2023年9月18日) ↩ 本文
- ラパポート本人・Raftt取得の発表(2023年12月) ↩ 本文
- Wiz — Gem Security取得発表(2024年4月10日) ↩ 本文
- ラパポート本人・10億ドル調達と資金使途の公表(2024年5月) ↩ 本文
- Shir Tamari / Sagi Tzadik — Hugging Face AIインフラ共同研究(2024-04-04) ↩ 本文
- Hugging Face — Wiz Researchとの協力とAI security(2024-04-04) ↩ 本文
- CTech・買収拒否後に1200人へ送られた社内メールの報道(2024年7月) ↩ 本文
- AP — Googleの320億ドル取得合意(2025年3月18日) ↩ 本文
- Wiz — FedRAMP Moderate authorization(2024-08-15) ↩ 本文
- Wiz / SBS — U.S. Navy研究施設とCOSMOS導入事例 ↩ 本文
- Wiz — Dazz取得発表(2024年11月21日) ↩ 本文
- Ynet・Dazz創業者Merav Bahatの独立取材(2024年12月) ↩ 本文
- Globes・新CFO Fazal Merchantの初直接インタビュー(2025年1月26日) ↩ 本文
- Gal Nagli — DeepSeekデータベースの公開状態と是正(2025年1月29日) ↩ 本文
- ラパポート本人・Googleとの買収合意の説明(2025年3月18日) ↩ 本文
- Google — Wiz取得完了(2026年3月11日) ↩ 本文
- CTech・Orcaとの特許紛争終了報道(2026年1月7日) ↩ 本文
- Assaf Rappaport — Google参加後の更新(2026年7月29日) ↩ 本文
- Ynet・買収後の不動産取得報道(2026年) ↩ 本文
- Assaf Gilead — Wiz winners: Founders, employees and investors(Globes、2026-02-11) ↩ 本文
- CTech・Guardio CEO Amos Peled直接取材とラパポートの出資コメント(2026年9月3日) ↩ 本文
- CTech — Reshet 13の支配権移転承認と拠出約束(2026年9月16日) ↩ 本文
写真の作者・利用条件・撮影年は各画像の下に記載。取材資料と写真の出典は別々に確認できます。
※ 円換算は2026年11月2日確認のWise表示値(1米ドル=157.6円、1イスラエルシェケル=51.14円)を使用。取引当時の為替や物価・購買力を再現するものではありません。 為替出典:USD / ILS
本文更新:2026-11-02


